こんにちは。介護コンサルタントの田中です。
今回は2026年10月19日に社会保障審議会(介護給付費分科会)で協議された、令和9年度の介護保険法改正に関しての資料をまとめました。
おそらくこの審議内容で改正される可能性が高いので、訪問介護事業者は確認をお願いいたします。
はじめに:訪問介護を取り巻く現状と改定の背景
訪問介護は、要介護者が住み慣れた自宅で生活を継続するために欠かせない在宅サービスの要です。
現在、全国の事業所数は3万5,000事業所を超えて微増傾向にありますが、現場ではヘルパーの深刻な人材不足(約7割の事業所で人員不足感)や、事業所の立地・規模・住まいの形態(戸建て・集合住宅)による経営状況のばらつきが大きな課題となっています。
社会保障審議会介護給付費分科会では、利用者が安心・安全に在宅生活を続けられるサービス提供体制の維持、事業所の安定的な経営・負担軽減に向けた検討が進められています。
厚労省資料「訪問介護(改定の方向性)」で示された3つの重要論点と加算の見直しポイントを解説します。
論点①:地域の協働化による介護サービスの提供体制の構築
高齢化の進展と人手不足の中、持続可能な訪問介護体制を構築するため、「自立支援・重度化防止」「他事業所との連携」「サービス提供責任者(サ責)の負担軽減」が柱として掲げられています。
1. 自立支援・重度化防止に向けた専門性の発揮と地域連携
訪問介護員(ヘルパー)には、身体介護や生活援助を通じて利用者の自立支援・重度化防止に資する専門的ケアを提供することが求められています。
一方で、地域の多様な主体や支え合いの仕組みと協働し、専門職が本来の役割を発揮できる環境整備や、訪問介護の魅力・専門性を地域に発信していく取り組みが推進されます。
2. 定期巡回・随時対応型訪問介護看護との連携促進
24時間365日の在宅生活を支えるため、日中の随時訪問サービスにおいて、訪問介護事業所が同一法人外の「定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所」と連携して対応した場合の報酬上の評価が検討されています。
3. サービス提供責任者(サ責)の業務負担軽減とICT活用
サ責は訪問業務や事務作業に追われ、本来のアセスメントやサービスマネジメント業務に集中しにくい状況が指摘されています。
現状のボトルネック:なぜサ責は本来業務に集中できないのか?
厚労省の調査によると、サ責が本来の役割(アセスメント、ケアプラン作成、ヘルパーの指導・育成など)を果たすことが困難な理由として、以下の2点が突出しています。
- 「ヘルパー不足のため、サ責自身が訪問介護に入らざるを得ない」:74.2%
- 「記録・報告書の作成、請求事務等の事務作業負担が大きい」:58.5%
この「現場訪問+事務作業」のダブルパンチにより、サ責のアセスメント機能やサービスマネジメント機能が機能不全に陥っている実態があります。
改定案を活用した「新・業務フロー」構築案
今回の改定案では、サ責の負担を大幅に軽減し、アセスメント機能を正当に評価するための見直しが組み込まれています。
① 初回加算の要件緩和を活用したスケジュール最適化
- 見直しのポイント: 現行の「初回サービスへの同行」に加え、「新たに訪問介護計画を作成するに当たり、サ責が利用者を訪問してアセスメントを実施した場合」も評価対象(初回加算:200単位/月)とすることが検討されています。
- 実務への落とし込み: ヘルパーの初回訪問時にサ責のスケジュールを合わせる必要がなくなります。事前の単独訪問でじっくりアセスメントと契約を行い、実際のサービス提供はヘルパー単独に任せる形へシフトすることで、サ責の動線とスケジュール管理の自由度が飛躍的に高まります。
② ICT・オンライン面談を活用した移動コスト削減
- 見直しのポイント: ヘルパーが利用者宅を訪問している際に、サ責がオンライン(タブレット等)で利用者との面談や状況確認を行った場合も評価する仕組みが検討されています。
- 実務への落とし込み: 中山間地域や移動に時間がかかる訪問先において、サ責が移動時間をかけずに定期的な状況把握やモニタリングを実施できるようになります。
【業務フロー変化の比較】
- 従来のフロー:
- 新規受任時、ヘルパーの初回訪問日にサ責が同行訪問(日程調整が難航)
- 移動時間が長く、事業所に帰社後に紙でアセスメント・計画書作成
- 訪問に追われ、他のヘルパーの指導や担当者会議への出席が後回しに
- 改定後の新フロー(推奨):
- サ責が事前の都合が良い日時に単独訪問し、アセスメントと計画作成を完了
- 初回サービスはヘルパーが訪問し、必要に応じてサ責が事業所からオンライン接続して面談・同行確認
- サ責の移動時間が大幅に削減され、本来の事例検討や多職種連携へ時間を配分
論点②:安定的な事業運営のための報酬の在り方(地域・経営状況への対応)
訪問介護事業所の経営状況は、都市部か中山間地域か、あるいは戸建てか集合住宅かといった事業形態により大きく異なります。
特に中山間・人口減少地域における戸別訪問型の訪問介護では、利用者の点在による移動コストの増大や、突然のキャンセルによる移動負担が安定経営の阻害要因となっています。
そのため、移動コストへの適切な評価や、年間を通じた経営の予見性を高める包括的な報酬設計について検討が行われています。
論点③:住まいの形態(戸建て・集合住宅)に合わせた報酬の見直し
集合住宅への訪問は、移動時間や距離が短く効率的な運営が可能な一方で、戸建て住宅への訪問は移動コストが高くなるという実態があります。
現行の「同一建物減算」については、サービス提供総数のうち同一建物等の居住者が90%以上を占める場合に適用される12%減算区分(正当な理由がない場合)の新設など適正化が図られてきました。
改定に向けては、単なる減算対応にとどまらず、移動コストの低さやサービス提供回数の多さなどの実態をより適切に反映した報酬区分そのものの見直しが検討されています。
集合住宅依存型事業所が取るべきリスクヘッジ
- 戸建て訪問比率の引き上げ: 同一建物内の利用者に依存した収支モデルから、地域での戸建て訪問を一定割合組み込む体制づくり。
- 定期巡回・随時対応型サービスとの連携(定期巡回Ⅲ): 同一法人外の定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所と連携し、日中の随時訪問サービスに対応することで、新たな報酬評価枠を獲得する。
加算等の見直し:特定事業所加算の再編と要件緩和
質の高いサービスや重度者対応、中山間地域でのサービス提供を評価する「特定事業所加算」についても、実態に即した見直しが行われます。
特定事業所加算の見直しポイント
- 加算Ⅳ(5%)の廃止と加算Ⅴ(3%)の新設・整理: 算定状況等を踏まえ、現行の加算Ⅳが廃止され、体制に応じた区分構成に再編されます。
- 「看取り期対応要件」の追加・選択化: 加算Ⅰ(20%)および加算Ⅲ(10%)において、従来の重度者割合要件(要介護4・5が20%以上等)に加え、「看取り期の利用者対応実績(1人以上)+医療機関・訪問看護との24時間連絡体制」を選択できるように検討。
- 「中山間地域等での継続的サービス提供」の評価: 地域資源が乏しいエリアで継続してサービスを提供する取り組みが体制要件(加算Ⅴ等)として評価されます。
取得区分の移行・収支影響シミュレーション(モデル事業所)
シミュレーション①:現行加算(Ⅱ)から「看取り要件」を活用して加算(Ⅰ)へ移行した場合
- 変更点: 地域の訪問看護ステーション等と24時間連携体制(体制要件6)を構築し、看取り期の利用者を年間1人以上受入れ。
- 加算率: 10%(加算Ⅱ) ➔ 20%(加算Ⅰ) へアップ
- 収支影響:
- 現行(加算Ⅱ): 500,000単位 × 10% = 50,000単位/月(約50万円)
- 移行後(加算Ⅰ): 500,000単位 × 20% = 100,000単位/月(約100万円)
- 増収効果:+50,000単位/月(年間 約600万円の売上増)
シミュレーション②:人材要件が厳しい小規模事業所が「新・加算Ⅴ」を取得した場合
- 変更点: 介護福祉士割合などの人材要件(加算Ⅱ・Ⅲ)を満たせなくても、研修体制や会議開催(体制要件1〜5)、中山間地域での継続提供(体制要件7)、ケアマネ等との共同見直し(体制要件8)を整える。
- 加算率: 加算なし ➔ 3%(加算Ⅴ)
- 収支影響:
- 500,000単位 × 3% = 15,000単位/月(年間 約180万円の売上増)
4. 訪問介護事業所が今すぐ取り組むべき「実行ロードマップ」
改定に向けて、事業所が今から準備すべきアクションを時期別にまとめました。
【今すぐ〜改定半年前】
□ サ責の業務棚卸し(訪問時間の割合と事務作業時間の測定)
□ ICT機器(タブレット・チャットツール)の試行導入とセキュリティ方針の策定
□ 地域の訪問看護ステーション・病院との連携可能性の打診(看取り対応の協力体制)
【改定3ヶ月前〜直前】
□ 新たな特定事業所加算の算定要件チェック(人材割合・研修計画・会議実績の確認)
□ 初回訪問・アセスメント手順の改訂(サ責単独訪問+ICT活用のフロー化)
□ 同一建物減算の該当割合の最終シミュレーションと訪問ルートの調整
まとめ:変化をチャンスに変える「高付加価値な訪問介護」へ
今回の訪問介護の改定案は、単なる減算や要件厳格化だけではなく、「サ責の本来業務への集中」「ICTを活用した効率化」「看取りや重度化対応に対する正当な評価」という、現場の課題に応えるメッセージが含まれています。
自事業所の弱点を補い、強みを活かせる加算区分への移行や業務フローの整理を早期に進めることが、今後の持続可能な事業所運営のカギとなります。
次回は居宅介護支援事業所の改正予定内容を公開します。
ご不明点等ございましたら、下記お問い合わせからご質問ください。

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